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2026.04.16

レポート

企業IT利活用動向調査2026」から見る日本企業のDX、AI活用、ランサムウェア被害の実態(電子契約の利用状況編)

株式会社アイ・ティ・アール
取締役 / プリンシパル・アナリスト  入谷 光浩氏

【概要】

  • 電子契約の利用率は約8割でほぼ定着段階に
  • 電子契約利用企業の85.2%は電子署名あり電子契約サービスを採用
  • 電子契約利用効果として、業務効率化だけでなく事業拡大やブランド価値向上への寄与も

本レポートでは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)が2026年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2026」(調査協力:株式会社アイ・ティ・アール)集計結果の中から、電子契約の利用状況について調査した結果を分析している。

電子契約の利用状況

これまでの「企業IT利活用動向調査」における電子契約の利用状況に関する調査結果を基に算出した、電子契約の利用状況の推移を示す(図61)。2020年調査までは電子契約の利用率が横ばいに推移していたが、2021年調査で大きく上昇している。DXによって業務のデジタル化が推進され、さらに2020年からの新型コロナウイルス感染拡大によってテレワークが普及したことで電子契約の需要が高まり、2020年から2022年にかけて導入が急速に拡大したと見ている。

2026年調査での利用率は80.2%と、2025年調査(78.3%)から上昇し、初めて8割を超えた。2023年調査以降の推移を見ると、利用率の上昇幅は緩やかになっており、電子契約の導入がひと段落し定着段階に入っていることがうかがえる。一方、「利用する予定・検討中」の割合は7.9%と2025年調査(9.6%)から低下しており、今後の新規導入の伸びは限定的になる可能性がある。

図61 電子契約の利用状況の推移:2015年~2026年

図61 電子契約の利用状況の推移:2015年~2026年

次に、利用している電子契約を方式別に分類している(図62)。電子契約の利用企業では、「事業者(立会人)型と当事者型を併用している」企業の割合(37.3%)が最も大きく、契約方式を一つに限定しない運用が広がっているとみられる。「当事者型を利用」「事業者(立会人)型」の利用企業を含めると、85.2%が契約書類の信頼性を確保するため電子署名あり電子契約サービスを採用している。

図62 電子契約の利用状況

図62 電子契約の利用状況

電子契約方式を選んだ理由

次に、電子契約方式を選んだ理由について質問を行った(図63)。「運用が容易で、署名や証明書発行の手間が少ない」が最も高く、過半数の企業が運用の簡便さを選定の最大の理由として挙げている。電子契約の導入において、実務上の使いやすさが優先される傾向が示されている。

「法的な証明力(本人性や非改ざん性)が高いため」が2位に挙げられており、法的信頼性も電子契約方式の選定において重視されていることがわかる。「取引先が受け入れやすく、導入を進めやすかった」も高い水準にあり、自社内での判断だけでなく取引先との関係性が方式選定に大きく影響していることがうかがえる。電子契約はひとたび利用が始まれば取引先との間で標準化が進みやすく、取引先の受け入れやすさが普及を後押しする重要な要因となっていることが示されている。

「契約締結が早く進められる」や「コスト(導入・運用保守)を抑えられる」も一定程度挙げられており、業務効率化とコスト削減という電子契約の基本的なメリットが理由として認識されていることがわかる。また、「自社のセキュリティ/ガバナンスポリシーの水準に合致している」も約2割の企業が挙げており、電子契約の選定においてセキュリティやガバナンスの観点も一定程度考慮されていることがうかがえる。

図63 利用している電子契約方式を選んだ理由

図63 利用している電子契約方式を選んだ理由

電子契約の利用による効果

次に、電子契約を利用したことによる効果を見てみる(図64)。「コスト削減(印刷代、郵送費、保管費用、印紙税など)」は3年間を通じて最上位を維持しているものの、やや低下傾向にある。電子契約の定着により、コスト削減効果が当然のものとして認識されるようになってきたことが背景にあると考えられる。「契約にかかる業務負荷の軽減」は、2024年調査の40.6%から2025年調査では49.2%へと大幅に上昇したものの、2026年調査では45.4%へと低下している。電子契約の活用範囲が広がり業務負荷軽減効果が広く実感された時期を経て、一定の水準に落ち着いてきていることがうかがえる。

「契約時のセキュリティの強化」は34.0%から36.6%へと上昇傾向にあり、サイバー攻撃リスクへの意識の高まりを背景に、電子契約のセキュリティ面での効果を重視する企業が増えていることが示されている。「取引先とのビジネス機会の増加」や「企業の先進性やDXのアピール」も上昇しており、電子契約が業務効率化にとどまらず、事業拡大やブランド価値向上にも寄与していることがうかがえる。

図64 電子契約の利用による効果

図64 電子契約の利用による効果

電子契約の導入後における課題

電子契約を導入した後に、どのような課題があるのだろうか(図65)。最も多く挙げられているのは「取引先に電子契約への対応を依頼する際の説明や調整負荷が大きい」であり、約4割の企業が課題として認識している。電子契約の普及が進む一方で、取引先によって電子契約への対応状況や理解度が異なるため、導入・運用における取引先との調整コストが最大の障壁となっていることが示されている。

「電子契約サービス・システムのコスト(利用料、運用保守費)の負担が大きい」と「電子契約と紙契約の併用が残っており、運用が複雑化している」も上位に挙げられており、コスト負担と移行期の運用複雑化が導入定着の障壁となっていることがうかがえる。「電子契約の保管・検索・証跡管理が煩雑である」も高い水準にあり、契約締結後のライフサイクル管理における課題も根強く残っている。また、「社内の承認フローや稟議システムとの連携が不十分である」や「電子契約サービス・システムが他の業務システムと連携できていない」も一定程度存在しており、既存の社内システムとのシームレスな連携が課題となっていることが示されている。

図65 電子契約の導入における課題

図65 電子契約の導入における課題

調査結果の考察

本章では、電子契約の利用状況とその効果、課題について調査結果を分析した。そこから得られた考察を以下にまとめる。

1.電子契約は企業活動の標準的な基盤として定着段階に入っている: 電子契約の利用率は初めて8割を超え、コロナ禍を契機とした急速な普及期を経て定着段階に入っていることが明確に示されている。事業者(立会人)型と当事者型を契約の性質や重要度に応じて使い分ける運用が広がっており、電子契約の活用が単なる紙契約の代替にとどまらず、契約業務の最適化へと深化しつつある。

2.電子契約の効果はコスト削減・業務効率化から事業価値創出へと広がりつつある: コスト削減や業務負荷軽減という基本的な効果は定着した一方で、契約時のセキュリティ強化、取引先とのビジネス機会の増加、企業の先進性やDXのアピールといった事業価値に関わる効果が上昇傾向にある。電子契約が業務効率化のツールとしてだけでなく、競争力強化や事業拡大に寄与する戦略的な手段として位置付けられるようになってきていることがうかがえる。

3.取引先との調整コストと運用の複雑化が電子契約定着の最大の障壁となっている: 電子契約が広く普及しているにもかかわらず、取引先への対応依頼における説明・調整負荷が最大の課題として残っている。また、紙契約との併用による運用の複雑化や、社内システムとの連携不足も根強い課題であり、電子契約の効果を最大化するためには、業界全体での標準化の推進と社内外のシステム連携の深化が不可欠となっている。

本内容は、筆者自身の調査分析に基づく個人的見解で、JIPDECの公式見解を述べたものではありません。

著者プロフィール

株式会社アイ・ティ・アール
取締役/プリンシパル・アナリスト 入谷 光浩氏

株式会社アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパル・アナリスト 入谷 光浩氏

ITRにおいて、システム運用とセキュリティに関する市場・技術動向調査と企業向けのコンサルティング・アドバイザリーを担当。
ITR以前は、グローバルIT調査会社IDCにて、15年以上ソフトウェアとクラウドサービスの調査・コンサルティングを担当し、日本における調査責任者も務める。
その他、複数の外資系大手ITベンダーにおいて、事業戦略の立案や新規事業調査を担当。

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