一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2022.11.21

レポート

デジタルグリーンシティ〜前橋の取組〜

前橋市 スマートシティ推進監
谷内田 修氏

はじめに

日本は2100年には人口が半減し、一方世界人口は40億人増えると算出されています。デジタルによる変革(DX)が急務とされており、今、行政と民間では最先端技術によるDXで暮らしや街を良くしていく改革が進められています。

そんな中、前橋市では“デジタル×スローシティ”をコンセプトに、「デジタル田園都市国家構想推進交付金(TYPE3)」の採択、統合IDによるDXの推進基盤整備等を積極的に行い、ルールや規則が人に従う、多様性のある社会の創造にポイントをおき、特に本人同意に基づくオプトインによる個別最適化したサービスの提供を目指して活動を続けています。

デジタル田園都市国家構想の全体像

デジタル田園都市国家構想とは、生まれてから死ぬまでDXをし続け「暮らし」「産業」「社会」を有機的につなげていくことで生活を豊かにすること、また行政と民間を区別せずサービスを提供していくことを言います。これまで分野ごとに考えられていた「交通」「医療」「教育」なども横断的に考えていく必要があり、これを総合的にデジタルサービスで提供するために考えられたのが前述した「統合ID」という概念です(図1)。

デジタル田園都市国家構想推進交付金の概要

図1.デジタル田園都市国家構想推進交付金の概要

前橋市の取組 

デジタルの最先端シティとして

前橋市では以前より、市のビジョンを民間の費用・主導で作り発表、共有するなど、官民連携の街づくりを進めてきました。特に、マイナンバーカードや電子証明書、顔認証と組み合わせて官民で使えるデジタル基盤の統合IDとして「めぶくID」(2022年10月に「まえばしID」から名称変更)を提供し、群馬県も前橋市が提供する「めぶくID」を利用するなど新しい取組みが注目されています。

また、市内の企業が自社の純利益の1%(または最低100万円)を街のために使うという取組み「太陽の会」を2016年に発足させたほか、市道を民間企業が整備するなど官民が連携した街づくりを積極的に進めています。そこに、日本通信株式会社の福田社長を中心としたDX推進が加わって前橋市はデジタルの最先端シティとして加速しています。

めぶくグラウンド設立

令和3年4月には、スーパーシティ構想※1の申請を行い、同年8月には日本ではじめてスマートシティ補助という形で行われた4府省合同ヒアリングにおいて「めぶくID」の構想や決済の地域「講」モデル等も認定されました。その後、デジタル田園都市国家構想TYPE3が再採択されたことを踏まえて、本年10月6日に官民共創の「めぶくグラウンド株式会社」設立を発表しました。

  • ※1 「スーパーシティ」構想は、医療や交通、教育、行政手続きなど、生活全般にまたがる複数の分野で、AI(人工知能)などを活用した最先端のサービスを導入することで、便利で暮らしやすいまちを実現していくもの。

デジタル×スローシティ

“デジタル(最先端技術)×スローシティ(違いは豊かさ)で人や街が幸せになる”をDX推進の方針としています。スローシティ(30カ国236都市)とは、違いが力、多様性が豊かさであるという考え方で、日本では気仙沼市と前橋市だけが加盟している国際的なネットワークです。

テーブルにさまざまな食事があると豊かと感じるように、障害者やLGBT等さまざまな方がいることが豊かさを生むという考え方です。そういう人もいるよね、という思考で止まってしまうのではなく、違いがあることで社会に豊かさを生むというのがスローシティの概念です。

誰一人取り残されないことと共に、技術やルールが人に寄り添うこと、供給が人にあわせていくことがこれからの社会のあり方だと思っています。

スローシティを実現させるためには、デジタル技術との融合が不可欠です。本人の同意に基づき分散している自身に関するデータをサービス提供者にオプトインする、また、提供者側が個別最適化したサービスを提供することで、一人ひとりの暮らしがバージョンアップすることが重要です。そして、そのために必要なのが個人のIDである「めぶくID」であり、それを活用することによって共助型未来都市を作っていこうというのが前橋市の取組みとなります。

ヨーロッパでは、スローシティの定義とされている「いつでもどこでもまちづくりに参加できる(デジタル市民権という考え方)」というキーワードをとても重要に考えています。「めぶくID」というアイデアもこの考え方を元に徐々に形になりました。様々な政策に対して住民投票を行い、賛否を確認することはとても重要であり、そのために統合IDは必要なアイデアでした(図2)。

前橋市のデジタルグリーンシティのイメージ

図2.前橋市のデジタルグリーンシティイメージ

めぶくID

「めぶくID」とは、マイナンバーカードの本人確認を実施した上で、スマートフォン上に電子署名法の電子証明書を発行し、これをトラストアンカー※2とする仕組みです。スマートフォンに搭載できて法的根拠のある現在では唯一のIDであり、官民問わず生まれてから死ぬまで技術的なサービスの提供が可能になります。

なお、ネット申請等のサービスを行う際、行政は法的根拠のあるサービスの提供が求められていますが、今現在、民間へは波及していません。ただし、今後は民間へも法的根拠のあるサービスの提供が求められると考えられ、その点でも「めぶくID」は注目されていくと思います。

  • ※2 インターネット上で行われる、電子的な認証の手続きのために置かれる基点のこと。トラストポイントとも呼ばれる。

さいごに

われわれがデジタルID含め新しいアイデアを進めていく中で、プライバシー保護やセキュリティ面への心配や不安の声を多く耳にしてきました。そこで前橋市では、プライバシーやセキュリティを守りますというだけの段階から一歩進み、設立しためぶくグラウンドが行う事業に関しては、法的裏付けのある電子署名の使用はもちろん、セキュリティ保険制度を設けるなど具体的な取組みを公表しています(図3)。デジタル保険制度を取り入れることで、金銭面でのフォローはもちろん、日頃からリスク分析・管理を適切に行うことが可能となり、この点もメリットと考えています。

また、めぶくグラウンドの設立と同時に、各自治体のID連携を中心としたDXを促し、地域課題を横連携かつ共同で解決するための政策を検討する「デジタル&ファイナンス活用による未来型政策協議会」を発足させました。

今後も“デジタルグリーンシティ前橋”をキーワードに、「めぶくID」を活用した共助型未来都市構想の実現に向けて活動をしてまいります。

前橋市デジタル施策のセキュリティ・プライバシー保護対策

図3.前橋市のデジタル施策に関するセキュリティ・プライバシー保護対策

講師
前橋市 スマートシティ推進監 谷内田  修氏

早稲田大学商学部卒。前橋市役所入職。
2022年前橋市スマートシティ推進監就任。「デジタル田園都市国家構想推進交付金」、「夏のDigi田甲子園」「めぶくグラウンド設立」「スマートシティ全般」を担当。

yachida