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2024.05.31

レポート

DXの現在地と成果の活用

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

2000年にIT革命が流行語大賞となって以降、わが国においても急速にデジタル化・IT化が推進され、現在はDX1として多くの企業がその取り組みを進めています。「企業IT利活用動向調査2024」においても、85.6%の回答企業が何かしらのDXに関する取り組みを行っていることが明らかになりました。業種としては「金融・保険」「情報通信」が、従業員規模別としては従業員規模の大きい方がDXに関する取り組みを進めていることは調査結果のとおりです。事業の特性や資金力などの影響を考慮すると妥当な結果と言えます。

DX成果の測定指標に関する結果を見ると、全社的にDXが定着している企業が「顧客エンゲージメント」「新規製品/サービスの投入時間・頻度」「市場シェア」を測定指標として用いている点は非常に興味深いと言えます。IPAはDX実践手引書において、社内のデジタル化およびサプライチェーンまでの範囲のデジタル化を推進している状態をデジタルオプティマイゼーションと定義しており、顧客体験の変革・市場での立ち位置の変革・社会の変革などを推進している状態をDXと定義しています。この定義に従うと、本調査で全社的にDXが定着している企業のうちでも、社外(顧客や市場)に目を向けた測定指標を用いた企業をDX段階の企業と捉えることができ、部門横断的に取り組んでいる状態の企業、一部の部門で取り組んでいる企業、全社的にDXが定着しているが社外に測定指標と持たない企業はデジタルオプティマイゼーション段階の企業と捉えることができます。上記の捉え方から、本調査の集計結果を再整理すると、DX段階にある企業は12.0%、デジタルオプティマイゼーション段階にある企業は73.6%、DXに関する取り組みを行っていない、もしくは分からない企業が14.4%であるという結果がDXの現在地ということになります。

また、DXがどの段階にあるかに関わらず、過半数近くの回答企業が「業務コスト」「労働時間/残業時間」をDX成果の測定指標として挙げていますが、これらの指標は、一般論として、企業のコスト削減につながりますし、過半数近くの企業がコスト削減のためにDXに取り組んできたことを示していると考えられます。2000年以降、消費者物価や物価指数は下がり続け2、企業保有の現預金は2000年比259.7%となる一方で、人件費は2000年比135.0%にとどまっています3。今後、企業がDXの目標としたコスト削減の成果を、顧客への利益還元だけでなく従業員の賃上げにも充当することで、従業員は職場を出れば消費者であることから、消費が促進され、国内経済の好循環につながるものと考えられます。このような取り組みはDX段階にある企業でも、デジタルオプティマイゼーション段階にある企業でも取り組むことが可能です。

DXの成果を売価の引き下げと賃上げに同時に還元するDXを推進する企業が増えれば、消費者の購買力が向上し、企業はより多くの自社の製品・サービスを購入してもらえるよう、さらにDXを推進するという好循環が実現します。このような好循環を実現する企業の取り組みは、政府が掲げる「成長と分配の好循環4」の一面をなす取り組みであり、より多くの企業がこのような取り組みを推進することが求められています。

  • 1 DXは、経済産業省が2020年11月9日に策定したデジタルガバナンス・コード2.0において、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。
  • 2 GDPデフレーターは消費税などの間接税を含む指標です。内閣府の国民経済計算(GDP統計)によると、2023年のGDPデフレーターは2000年比で、消費税が5%から10%に引き上げられているにもかかわらず、約4.5%低下しています。
  • 3 財務省 法人企業統計調査別ウインドウで開く
  • 4 内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2023別ウインドウで開く
著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

青山学院大学法学部卒業後、不動産業界を経て、2018年より現職。経済産業省、内閣府、個人情報保護委員会の受託事業に従事するほか、G空間関係のウェビナーなどにもパネリストとして登壇。その他、アーバンデータチャレンジ実行委員。
実施業務:
・自治体DXや自治体のオープンデータ利活用の推進
・プライバシー保護・個人情報保護に関する調査
・ID管理に関する海外動向調査
・準天頂衛星システムの普及啓発活動 など