一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2024.05.31

レポート

プライバシーガバナンスをめぐる動き

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主幹 恩田 さくら

デジタル化の加速を背景に、パーソナルデータの利活用におけるプライバシーへの配慮はますます重要になってきています。企業が社会から信頼を獲得するためのプライバシーガバナンスの構築に向けて取り組むべきことを取りまとめた「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」(以下、ガイドブック)は、経済産業省、総務省より2020年8月に発表され、2023年4月に最新のver1.3が公表されました1

このガイドブックや付属資料においても、企業のプライバシーガバナンスに関する実践例が紹介されてきたところですが、2023年度も、プライバシーに関係する主要な団体のイベント2や、学会3、ビジネス法専門誌4など5においても、引き続き、プライバシーガバナンスの重要性、実効性の確保や定着、組織のデータ活用とコミュニケーションの在り方などについて議論が深められるとともに、各企業のプライバシーガバナンスに係るプラクティスの共有が図られました。業界団体におけるセミナーや勉強会も開催されました。

プライバシーガバナンスをより強固にするものとして、プライバシー影響評価(PIA)を実施し、その結果を発信する事例も見られるようになりました。株式会社NTTドコモは、「NTTドコモグループ サステナビリティレポート2023」の中でPIA制度や、評価件数、事例を紹介しています。また利用者向けのWebサイトからもPIAの取り組みを発信しています。

2024年4月19日に、経済産業省と総務省は「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」6(以下、ガイドライン)を公表しました。ガイドラインの共通の指針の1項目として、プライバシーを尊重し、保護することが重要であるとされています。ガイドラインの別添資料の中では、プライバシーガバナンスの重要性も指摘されています。例えば、AIシステムをアプリケーション、製品、システムなどに組み込んだサービスを提供する事業者に対して、プライバシー侵害への対策として、常に関連する情報を収集し、有識者との関係性を構築して相談することなどが期待されるとされており、具体的な手法として、プライバシー保護組織による対応が紹介されています。また、AIシステムまたはAIサービスを利用する事業者向けにも、個人情報の不適切入力及びプライバシー保護組織を中核として、新規事業部門を含むAIシステム・サービスを利用する部門の密なコミュニケーションを醸成したり、関連情報を社外有識者から収集したり、多角的に対応策を検討する等を実質的に行うことができる、との記述もされています。

現在、個人情報保護法の3年ごと見直しの検討が進んでいますが、個人情報保護委員会による経済団体等に対するヒアリングの中でも、プライバシーガバナンス等の民間の自主的な取り組みの推進については言及されています。一般社団法人日本経済団体連合会のヒアリングの資料7においては、データ主体や社会からの信頼獲得のために、アジャイル・ガバナンスの考え方の採用、プライバシーガバナンスの促進等によるPDCAサイクルの構築と事業者の主体的取り組みの推進が求められています。また、実効性のある監視・監督の在り方として、事業者の主体的な取り組みや適切な対応を促す仕組みとして、プライバシーガバナンスやデータガバナンス体制を促す仕組みや、PIAの普及への支援などが挙げられています。

今後もプライバシーガバナンスに対する理解が進み、企業の自主的な取り組みが広がるとともに、その取り組みが社会からのその企業の信頼の獲得につながるような環境整備が進んでいくことが望まれます。

  • 1 「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブックver1.3」
  • 2 MyDataJapan CONFERENCE 2023(2023年7月14日開催)、NIKKEI PRIVACY CONFERENCE 2023(2023年10月30日開催)、Privacy by Design Conference 2024(2024年1月24日開催)等。
  • 3 情報ネットワーク法学会(2024年12月9日開催)等。
  • 4 NBL1257(2024.1.1)号「データガバナンス/プライバシーガバナンスの要諦と課題(上)」、NBL1258(2024.1.15)号「データガバナンス/プライバシーガバナンスの要諦と課題(下)」
著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 主幹 恩田 さくら

データ利活用や保護に係る検討に従事。直近では、「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」「カメラ画像利活用ガイドブック」の策定・改訂に事務局として従事。