一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2026.04.16

レポート

企業IT利活用動向調査2026」から見る日本企業のDX、AI活用、ランサムウェア被害の実態(経営課題とDXの実践状況編)

【概要】

  • データ/AI活用による新規ビジネス創出を今後重視する経営課題と捉える層が前年より5ポイント増加
  • 29.4%が「データ・AI活用」を重点投資対象に。「人材育成/リスキリング」は25.4%
  • 内向きDXと外向きDXでは成熟度に差。外向きDXの取り組みは広がっているがまだ成果につながっているケースは少数

株式会社アイ・ティ・アール
取締役 / プリンシパル・アナリスト  入谷 光浩氏

本レポートでは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)が2026年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2026」(調査協力:株式会社アイ・ティ・アール)集計結果の中から、企業における経営課題とDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践状況について調査した結果を分析している。

経営課題と施策への投資状況

企業が今後に向けて重視していく経営課題について質問を行った(図1)。「業務プロセスの効率化」は2025年調査から微増し、引き続き最上位を維持している。また、「従業員の働き方改革」や「社内体制・組織の再構築」、「社内コミュニケーションの活性化」も前年同様上位となるなど課題に大きな変動は見られず、多くの企業が成長投資よりも、人材不足やコスト増を背景とした既存業務・組織基盤の安定化を継続的に重視していることがうかがえる。

「情報セキュリティの強化・ゼロトラストセキュリティの実現」は、2025年調査から回答率が上昇している。サイバー攻撃や情報漏えいリスクの高まりを受け、セキュリティ対策が個別のIT施策にとどまらず、事業継続や企業価値を守るための恒常的な経営課題として位置付けられつつある。

一方、「データやAIの活用による新規ビジネスの創出」は、2025年調査から5ポイント以上の伸びが見られるものの、依然として中位にとどまっている。関心は着実に高まっている一方、効率化やリスク対応と比べると優先度は相対的に低く、収益化・事業化に向けた本格的な取り組みはこれからの段階にあることが示唆される。

図1 今後に向けて重視していく経営課題

図1 今後に向けて重視していく経営課題

では、経営課題に向けて策定した経営施策の投資はどのような状況にあるのだろうか。ここでは10個の経営施策を提示し、各施策への投資状況について質問している(図2)。「業務のデジタル化」や「サイバーセキュリティ対策」、「情報漏えい対策/コンプライアンス強化」では、重点的に投資を行っている割合と投資を継続している割合の合計が60%を超えている。企業運営に不可欠な領域への投資が広く定着し、成熟フェーズに入りつつあることがうかがえる。

「データ・AI活用」と「人材育成/リスキリング」も重点的に投資を行っている割合が比較的高く、中長期的な競争力強化を見据え、将来の価値創出に向けた投資を本格化させる企業が増え始めている。

図2 経営施策に対する投資状況

図2 経営施策に対する投資状況

テレワークの実施状況

重要な経営施策のひとつである働き方改革の取り組みにおいて、テレワークの推進が重要になっている。そこで、テレワークの実施状況について質問を行った(図3)。「全面的にテレワークでの勤務が中心になっている」(7.3%)と「出社とテレワーク併用のハイブリッド勤務で、出社は強制されていない」(26.3%)の合計は33.6%と、2025年調査(34.0%)とほぼ同水準で推移している。約3社に1社では、テレワークが一時的な対応にとどまらず、働き方の一つとして定着していることがうかがえる。

「出社とテレワーク併用のハイブリッド勤務で、最低出社日数が決められている」は2025年調査の20.4%から22.0%へ微増している。業務効率やマネジメント、社内コミュニケーションの維持を重視し、出社ルールを明確化したハイブリッドワークへ移行する動きが徐々に広がっている。

一方、「テレワーク制度はあるがほとんど活用されておらず出社が中心になっている」(18.3%)と「以前テレワークは実施していたが、現在は制度が廃止されてなくなった」(6.1%)の合計は24.4%と2025年調査(22.9%)からわずかに上昇しており、テレワーク制度が実質的に機能しなくなっている企業も緩やかに増加しつつある。

図3 テレワークの実施状況

図3 テレワークの実施状況

DXの実践段階の状況

現在、企業のDXがどの実践段階にいるかについて質問を行った(図4)。「全社戦略に基づいてDXを実践している」(「一部の部門で実践」「部門横断的に実践」「全社的に定着し継続的に実践・改善」の合計)は、2024年調査の59.3%から2026年調査では65.1%へと拡大しており、過半数の企業がすでに全社戦略に基づくDX推進の段階に移行していることがわかる。その内訳を見ると、「全社的にDXが定着し継続的に実践と改善が行われている」は15.5%(2024調査)から16.9%(2026年調査)へと上昇しており、DXを一過性のプロジェクトではなく、継続的な経営改善サイクルとして組み込む段階に達した企業が着実に増えつつある。

一方、「着手していない」企業は2024年調査の11.3%から2026年調査では8.6%へと減少し、「全社戦略はないが部門単位での試行や実践が行われている」も26.3%から24.7%へと微減している。部門単位の取り組みにとどまる企業や未着手の企業が縮小しており、DXへの取り組みが企業全体に着実に広がっていることが確認できる。

図4 DXの実践段階

図4 DXの実践段階

次に業種別にDXの実践段階を見てみると、全社戦略に基づいたDXの実践では、金融・保険と情報通信が先行している(図5)。一方で、卸売・小売とサービスが遅れをとっている。サービスは「着手していない」が13.0%と高く、最も遅れている業種といえる。

図5 DXの実践段階:業種別

図5 DXの実践段階:業種別

さらに従業員規模別にDXの実践段階を見てみる(図6)。従業員規模が大きくなるにしたがってDXの実践も進んでいる傾向があり、従業員5,000人以上では「全社的にDXが定着し、継続的に実践と改善が行われている」が29.8%と非常に高い。一方、従業員299人以下では、約半数が「全社戦略はないが部門単位での試行や実践が行われている」もしくは「着手していない」の段階であり、中小企業におけるDXの実践が遅れている状況が色濃く出ている。

図6 DXの実践段階:従業員規模別

図6 DXの実践段階:従業員規模別

DXの取り組み内容と成果の状況

DXには、様々な取り組みがある。そこで、DXの取り組み内容について10項目を示し、その取り組み状況と成果について質問を行った(図7)。ここでは、DXの取り組みを大きく2つに分類している。ひとつは「内向きのDX」で、社内を対象に業務のデジタル化や従業員体験を向上させる取り組みである。もうひとつは「外向きのDX」で、顧客や市場に新たな価値を提供する取り組みである。

内向きのDXでは、「業務のデジタル化・自動化」が最も取り組まれており、「取り組んでいて成果が出ている」の割合が52.1%と、半数以上の企業で成果が確認されている。「ワークスタイルの変革」(36.3%)がこれに続き、この2項目は成果が出ている割合が成果の出ていない割合を上回っている。一方、「意思決定の迅速化・高度化」では成果が出ていない割合が41.7%と高く、取り組みの難度の高さがうかがえる。「従業員間のコミュニケーション/コラボレーションの活性化」や「ビジネス環境変化に柔軟に対応できる新たな組織作り」においても、成果が出ていない割合の方が大きく、組織・人材に関わる取り組みでは成果創出に時間を要する傾向がある。

外向きのDXでは、「顧客体験や顧客接点のデジタル化」(30.9%)と「データに基づいた営業・マーケティングの高度化」(29.4%)が成果の出ている割合で上位に位置する。しかし、外向きのDX全10項目のいずれにおいても、成果が出ていない割合が成果の出ている割合を上回っており、取り組みの本格化はこれからの段階にある。「新たなビジネス機会に向けた他社との共創やエコシステムの構築」は取り組んでいる企業自体がまだ少なく、外向きのDXの推進にはさらなる取り組みの加速が求められる。

内向きのDXと外向きのDXを比較すると、現時点では両者の間に明確な成熟度の差がある。内向きのDXは業務効率化を中心に成果創出が進み、一定の定着段階に入りつつある。一方、外向きのDXは取り組み自体が広がっているものの、成果につながっている企業はまだ少なく、試行・模索の段階にとどまっている。

図7 DXの取り組み内容と成果の状況

図7 DXの取り組み内容と成果の状況

次に、内向きのDXにおける2025年調査との比較を見てみる(図8)。全5項目で「取り組んでいて成果が出ている」の割合が上昇しており、内向きのDX全体として成果創出が着実に進んでいることがわかる。「業務のデジタル化・自動化」は2025年調査の52.1%から2026年調査では52.9%とほぼ横ばいで推移しており、すでに高い成果率を維持したまま定着の段階に入っている。「ワークスタイルの変革」も36.3%から37.9%へと微増しており、働き方改革に関する取り組みが引き続き成果につながっている。

注目されるのは「意思決定の迅速化・高度化」で、前回調査では成果が出ていない割合が41.7%と高く課題として指摘されていたが、今回調査では成果が出ている割合が33.3%から37.1%へと3.8ポイント上昇し、成果が出ていない割合も35.9%へと改善が見られる。データ活用やAIの導入が意思決定の高度化に寄与し始めている可能性がある。「従業員間のコミュニケーション/コラボレーションの活性化」および「ビジネス環境変化に柔軟に対応できる新たな組織作り」も成果が出ている割合が上昇している。組織・人材に関わるこれらの取り組みは成果創出に時間を要する傾向があるが、継続的な取り組みが実を結び始めていることがうかがえる。

図8 内向きDXの取り組み内容と成果の状況:2025年調査との比較

図8 内向きDXの取り組み内容と成果の状況:2025年調査との比較

さらに、外向きのDXにおける2025年調査との比較も見てみる(図9)。全5項目のうち、成果が出ている割合が上昇したのは「顧客体験や顧客接点のデジタル化」、「データに基づいた営業・マーケティングの高度化」、「新たなビジネス機会に向けた他社との共創やエコシステムの構築」の3項目にとどまり、「既存の製品・サービスの付加価値向上や収益モデルの変革」と「新たな製品・サービスの創出」はいずれもわずかに低下している。

成果が出ている割合で最も高いのは「顧客体験や顧客接点のデジタル化」(31.4%)であり、顧客接点のデジタル化は外向きのDXの中では比較的取り組みが進んでいる領域といえる。また、「データに基づいた営業・マーケティングの高度化」は4.0ポイントの上昇と、外向きのDXの中では最も改善幅が大きく、データ活用による営業・マーケティング高度化への取り組みが成果につながり始めている。

しかし、外向きのDX全項目において依然として成果が出ていない割合が成果の出ている割合を上回っており、前回調査から大きな構造的変化は見られない。内向きのDXが成果創出の面で着実に進展しているのと対照的に、外向きのDXは取り組みの拡大と成果創出の両面でいまだ課題が多く、本格的な成果獲得に向けてはさらなる時間と投資の継続が必要な段階にあると考えられる。

図9 外向きDXの取り組み内容と成果の状況:2025年調査との比較

図9 外向きDXの取り組み内容と成果の状況:2025年調査との比較

DX成果の測定指標

DXの成果測定にはどのような指標が用いられているだろうか。「業務コスト(業務に係る費用)」と「労働時間/残業時間」が最も多く、2社に1社がコスト削減や業務効率化に関連する指標でDXの成果を測定している(図10)。これは、内向きのDXが成果創出の面で先行しているという傾向と一致しており、企業がDXの効果をまず効率化の観点から評価していることを示している。

一方、「収益(既存と新規の両方の売上を含む)」や「顧客エンゲージメント(NPS、満足度含む)」、「新規製品/サービスの投入時間・頻度」といった外向きのDXに関連する指標の活用も一定程度見られる。ただし、2025年調査との比較では、これらの項目はほぼ横ばいか微増にとどまっており、外向きのDXの成果測定が本格化するにはいまだ至っていない。

図10 DX成果の測定指標

図10 DX成果の測定指標

次に、DX成果の測定指標をDX実践段階別に見ると、実践段階が進むほど多様な指標を活用してDXの成果を測定する傾向が明確に表れている(図11)。全社的にDXが定着している企業では、「業務コスト」や「労働時間/残業時間」といった効率化指標が高水準を維持するとともに、「従業員エンゲージメント」、「収益」、「顧客エンゲージメント」、「データの活用度合い」など、成長や価値創出に関連する指標の活用割合も他の段階と比べて際立って高い。DXが定着している企業では、効率化にとどまらず、事業成果や組織能力の向上を多面的に測定する仕組みが整いつつあることがうかがえる。

一方、部門単位での試行や実践にとどまっている企業では、「業務コスト」や「収益」、「顧客エンゲージメント」といった指標の活用割合が全体平均を下回っている。また、「指標を使って測定していない」が9.9%と全段階中最も高く、取り組みの成果を適切に評価・管理できていない企業が相対的に多いことが示されている。

図11 DX成果の測定指標:DX実践段階別

図11 DX成果の測定指標:DX実践段階別

DX実践における問題

DXを実践している中でどのような問題が生じているだろうか。調査結果を見ると、「組織間の連携やコミュニケーションが不足している」が42.1%と最も高く、2025年調査(41.7%)からさらに上昇している(図12)。次いで「業務プロセスや既存システムが複雑である」、「既存業務の負担が大きくDXまで手が回らない」が続いており、この上位3項目はいずれも2025年調査から増加している。さらに、「データがサイロ化しDXに向けた活用が十分にできていない」も22.6%から25.5%へと2.9ポイント上昇しており、データ活用やAI活用への関心が高まるなかで、データ基盤の整備が追いついていない実態が浮かび上がっている。

「経営層の理解や関与が不足している」と「DXの成果やKPIの可視化ができていない」はほぼ横ばいで推移している。経営層の関与不足や成果の見えにくさは引き続き課題として認識されているものの、改善があまり進んでいない状況がうかがえる。また、「既存のビジネスモデルの改革に対する不安や抵抗感が大きい」は13.8%から16.8%へと上昇しており、外向きのDXを本格化させていくうえでの心理的・文化的障壁が顕在化しつつあることがうかがえる。

図12 DXの実践で生じている問題

図12 DXの実践で生じている問題

次に、DXの実践で生じている問題をDX実践段階別に見ると、段階によって課題の構造が異なることがわかる(図13)。部門単位での試行や実践にとどまっている層では、「組織間の連携やコミュニケーションが不足している」が最も高く、全社的な戦略や推進体制が整っていないことによる組織間の分断が、DX推進の最大の障壁となっている。全社戦略に基づいて一部の部門で実践が行われている層では、「既存業務の負担が大きくDXまで手が回らない」と「組織間の連携やコミュニケーションが不足している」が突出して高い。全社戦略は存在するものの、実行段階での現場負荷と部門間連携の不足が、取り組みの横展開を妨げている状況が読み取れる。

全社戦略に基づいて部門横断的に実践されている層では、「業務プロセスや既存システムが複雑である」と「経営層の理解や関与が不足している」が相対的に高い。取り組みが部門横断的に広がるなかで、既存システムや業務プロセスの複雑さが障壁となるとともに、経営層の継続的な関与の重要性が改めて意識されている。一方、全社的にDXが定着している層では、「組織間の連携やコミュニケーションが不足している」や「既存業務の負担が大きくDXまで手が回らない」、「データがサイロ化しDXに向けた活用が十分にできていない」がいずれも全体平均を下回っており、組織・データ面での課題が相対的に解消されつつある。しかし、「業務プロセスや既存システムが複雑である」は全体平均とほぼ同水準で残存しており、DXが定着した段階においても既存システムの複雑さは継続的な課題として残ることが示されている。

図13 DXの実践で生じている問題:DX実践段階別

図13 DXの実践で生じている問題:DX実践段階別

調査結果の考察

調査結果の考察

本章では、DXの実践状況とその課題について調査結果を分析した。そこから得られた考察を以下にまとめる。

1.経営の安定基盤とDX推進が両輪で進んでいる: 最も重視されている経営課題は引き続き業務プロセスの効率化であり、業務のデジタル化・自動化は半数以上の企業で成果が出ている。一方、セキュリティ対策への投資も拡大しており、効率化とリスク管理という経営の安定基盤を固めながら、DXを着実に前進させている企業の姿が浮かび上がっている。

2.DXの全社展開が進む一方、外向きのDXへの転換が次の課題となる: 全社戦略に基づいてDXを実践している企業は過半数を超え、内向きのDXでは全項目で成果率が向上するなど、DXの定着が着実に進んでいる。しかし、外向きのDXは依然として成果が出ていない割合が高く、効率化で培ったデータ・デジタル基盤を事業成長や新たな価値創出へと活かす取り組みへの転換が、次の重要なステップとなる。

3.データ・AIへの関心の高まりが、DXの次フェーズを牽引する: データやAIの活用による新規ビジネスの創出を経営課題として挙げる企業が2025年調査から大きく増加しており、データ・AI活用への投資を本格化させる企業も増え始めている。DXが定着している企業ほど収益や顧客エンゲージメントなど多面的な指標で成果を測定しており、データ・AIの活用がDXの深化と事業変革を加速させる原動力となることが期待される。

4.DX推進の障壁は技術よりも組織・プロセス・文化にある: DXの実践で生じている問題の上位は、組織間の連携不足、既存システムや業務プロセスの複雑さ、既存業務による現場の負荷であり、いずれも2025年調査から悪化している。テクノロジーの導入だけでなく、組織横断的な推進体制の整備、業務プロセスの抜本的な見直し、そして変革を受け入れる企業文化の醸成を一体的に進めることが、DXをさらに高度化させるための鍵となる。

本内容は、筆者自身の調査分析に基づく個人的見解で、JIPDECの公式見解を述べたものではありません。

著者プロフィール

株式会社アイ・ティ・アール
取締役/プリンシパル・アナリスト 入谷 光浩氏

株式会社アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト 入谷 光浩氏

ITRにおいて、システム運用とセキュリティに関する市場・技術動向調査と企業向けのコンサルティング・アドバイザリーを担当。
ITR以前は、グローバルIT調査会社IDCにて、15年以上ソフトウェアとクラウドサービスの調査・コンサルティングを担当し、日本における調査責任者も務める。
その他、複数の外資系大手ITベンダーにおいて、事業戦略の立案や新規事業調査を担当。

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