一般財団法人日本情報経済社会推進協会

ナビゲーションをスキップ

EN

お問い合わせ

2020.03.03

レポート

環境計量データの電子化(2)

筆者:一般社団法人日本EDD認証推進協議会
理事
光成美紀

《計量証明書の電子化:書面の電子認証》

当協議会(日本EDD認証推進協議会, JEDAC)が提供している環境計量データの電子化とは、計量証明書の電子化を行うe-計量と、計量証明書に記載された数字等を含めた環境計量データの電子化(海外等で言われる電子納品、Electronic Data Deliverables, EDD)の2種類があります。

図:計量証明書サンプル画像

 「環境計量データの電子化(1)」で紹介したように、現在国内で提供されている計量証明書は、通常、紙に出力された計量結果に環境計量士が押印することによって正式な計量証明書として発行されます。電子交付により計量証明書の発行を行う場合、その計量証明書が含まれるファイル等へ電子署名、タイムスタンプを付し、信頼性のある形で電子交付する必要があります。
 計量証明書を発行する環境計量証明事業者の業界団体である一般社団法人日本環境測定分析協会では、2015年に「計量証明事業における計量結果の電子交付の運用基準(ガイドライン)例示」を公表しました。
JEDACでは、これらの要件をすべて満たした事業者等がe-計量を活用した計量証明書を発行しており、電子証明書は、国際的な基準を満たす一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)から発行されています。
 計量証明書を発行する環境計量証明事業者は、e-計量の導入にあたって、既存システム等の大幅な変更をする必要はなく、e-計量内で電子署名とタイムスタンプが付与され、作成された電子ファイル(PDFファイル)をメール添付等で納品します。発注者側は、e-計量で納品された計量証明書を、通常の電子ファイルを受領する場合と同様に、電子ファイルとして閲覧できます。

《e-計量のメリット》

e-計量のメリットは、書面の納品物を電子化することにより、ハンコなどの押印の手間が省けるほか、郵送物の準備の手間が省略でき、納期を短縮できます。また、郵便代を削減できることに加え、計量証明書を作成する環境計量証明事業者、計量証明書の受け手となる企業等でも、書類保管スペースが削減できるなどのメリットがあります。
 工場一カ所の調査データであったとしても、時系列のデータや複数のサンプリングポイントがある場合は、ファイルが二桁の数となるケースが多く、これらのファイルを作成する手間だけでなく、保管倉庫などのスペースが不要になるメリットも大きいと言えるでしょう。
 電子化したファイルは、電子保存ができ、過去のデータ等を検索確認することもできます。昨今進められている働き方改革などに伴い、環境計量士が、オフィス以外でも作業を進めること(テレワーク)ができるようになり、さらに、工場や建設工事現場などオンサイトでの確認も可能になります。

(参考) 一般社団法人日本環境測定分析協会「計量証明事業における計量結果の電子交付の運用基準(ガイドライン)例示」(2019年)

「電子媒体による計量証明書の交付」によって発行された計量証明書は、電子媒体上での発行行為によるものであり、交付された計量証明書の原本は電子媒体上のみに存在します。そのために「改ざん防止、情報のセキュリティ」に対して出来得る限りの対応を考慮したものでなくてはなりません。
また環境計量士(計量管理者)の押印を省略出来るのは、電子媒体で交付する計量証明書に対して電子証明書による電子署名と、タイムスタンプを付した場合だけとなります。したがってガイドラインでは計量法のみならず、電子署名法をも考慮したものとする必要があります。

(出所)
詳細は一般社団法人日本環境測定分析協会Web(以下)参照。

《データ分析と活用における電子データの重要性》

e-計量では数値データ等は電子ファイルの中にありますが、環境計量データそのものの電子化ができるようになると、さらにそのメリットや活用の可能性が広がります。具体的には、大気や水、有害物質等のデータが電子化されることによる、他のデータとの解析や空間分析の可能性とその処理の容易さです。
 スマートフォンの普及によって多くの人が日常生活で実感しているように、現在では、地図情報が様々な社会経済データと組み合わせられています。目的地となる待ち合わせ場所に行く際に、その経路や時間などが位置情報と組み合わせられ、瞬時に提供されています。大気中の有害物質の濃度や水質などの計測値を示す、環境計量データが、地図情報と組み合わせられると、様々な応用が可能になります。
 米国では多くの環境データが電子化され、地図情報に組み入れられており、官民で様々な活用があります。
 米国の連邦政府機関では、テロや事故等の早期発見と問題の対処をすることを目指して、各省庁連携のネットワークがあり、その中に水道や排水、大気や土壌などの有害物質の濃度などを測定する環境計量分析データのネットワーク(Environmental Response Laboratory Network、ERLS)も参画しています。ERLSには、現在140以上の官民ラボが参画していますが、事前に測定や計量データの様式等を共有することによって他省庁の食品や農畜産物、疾病・健康情報などと迅速に統合し、米国内の安全保障やリスク管理に貢献しています。環境計量分析データのネットワークは、さらに水道水と排水など水関連のネットワークもあり、Water Laboratory Allianceと呼ばれ、800種類の汚染物質について対応できる体制になっています。例えば、河川流域に有害化学物質が混入した場合など、下流の水質検査で確認した情報をもとに、一定地域内にある計測結果を時系列に集約し、解析することによって、汚染源の特定や拡大防止に向けた施策を早期に講じることができます。外部環境や飲食したものと疾病等の関係性を分析する疫学(Epidemiology)の研究も可能になり、異物混入事故の原因把握、被害想定などの予測も早期にできるため、影響拡大を抑制できる効果が期待できるでしょう。

こうした環境データは現在、地域別のリアルタイム計測も増えており、老朽インフラ設備の更新情報にも活用されています。地域のガス会社のインフラ設備更新計画の策定のため、数十年たったガスパイプラインのメタンガスの漏えい状況を測定し、地図上で濃度分布の解析を行うなどのサービスも発展しています。老朽化が進んだパイプラインの更新計画をより効率的に策定することができます。これまで多額の費用や分析の手間がかかっていたものが、電子化(IT)の活用によって、容易にまた低コストで実施できるようになっています。

《電子ファイルを普及するために》

実際に、こうした利便性を企業や行政組織がビジネスや政策的に活用する場合には、いくつかの手続き等が必要となってきます。
第一に、電子化のための数値データを共有化する際のルールを明確にする必要があります。データを共有する際には、例えば物質名称や数値の桁数、計測方法や漢字やひらがななど、データを統合する際の規定を定めなければなりません。
第二に、リアルタイム、空間分析、他のデータとの統合の際に重要な、緯度経度、深度、時刻などのデータが付与されることが求められます。現在の計量証明書は環境計量証明事業者が指定された地点で水や土などのサンプルを採取し、測定して結果を計測する流れが一般的になっており、原則として、地点データとして緯度経度などの情報は計量証明書には記載されていません。また法律上も求められていないことから、計量証明書の大部分には時刻等の情報も含まれていません。これらのデータについても、桁数など一定のルールが必要となります。
こうした課題は、データの発注者が指定フォーマットを作成することで比較的短期間に取組が普及する可能性もあります。
米国では、連邦環境保護庁(EPA)が地域別にこのEDDの提出用の仕様書を発行しています。
水、大気、土壌などのデータをどのように入力するか、地図情報システムに組み入れるための緯度経度や深度情報、データ確認の方法など、数十項目に及ぶデータについて規定し、数年毎にこの仕様書を改訂して公開しています。
また、これらのデータを収集・管理できるソフトウエアを販売する会社では、各地域の仕様に合わせてデータのやり取りができるようになっています。

《おわりに》

昨年の台風による全国での浸水被害のように、今後も気候変動に伴い、国内での甚大な自然災害が頻繁に発生することが予想されますが、環境計量データの電子化と、それによる各種システム連携により、事前の準備や迅速な対応によって被害を大きく緩和できる可能性があります。(例えば、光化学スモッグの状況をより細かく測定し、地域別に情報発信することができる、河川や水域の水質と、水域への放流口等の水質検査をより詳細に実施することによって水質管理のシミュレーションが時期や時間帯別に詳細に実施でき、有害物質を含む液体などが河川水域へ混入した場合等に、河川の下流流域で影響を受ける可能性がある地域住民へのアナウンスを素早く行う等)
高齢化を迎える地域社会を、どのように安全に維持していくのかを考えるとき、環境データを電子化していくことで、迅速な連絡や、被害の抑制、中期的には予知研究やシミュレーションの精緻化等にもつながります。計量証明書の数値データを電子化し、緯度経度、深度、時刻等の情報を付与することで、公的データの活用が大きく広がる可能性を秘めています。
JEDACでは引き続き、環境計量データの電子化に向けた取り組みを進め、国内の災害対策、自然環境保護、業務の効率化等に貢献できる取組を進めていきます。

本コラムに関連するページ