2023.02.27
レポート
令和5年度 経済産業省デジタル関連施策について
経済産業省のデジタル政策
デジタル庁の位置づけ
デジタル庁は、政府全体の基本方針を示した、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において各省庁の「司令塔」として位置付けられています。取組みの大きな柱として、「1.生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供」、「2.デジタル基盤の整備による成長戦略の推進」、「3.安全安心で強靭なデジタル基盤の実現」の3つが掲げられ、中でも特に、下記5つの分野に関しては経済産業省が密接に連携し推進しています。
1)デジタル臨時行政調査会の推進
2)データ戦略
3)デジタル田園都市国家構想の推進
4)ガバメントクラウドの整備
5)DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のあるデータ流通)の推進
経済産業省 デジタル社会の実現に向けた5つの柱
経済産業省が現在注力して進めている政策として、下記の5つを掲げています。
1.デジタル産業基盤の強化
2.デジタルインフラ整備
3.デジタル人材育成・デジタルトランスフォーメーション
4.IPAの機能強化
5.国際関係
1~3は、進化させつつ従来から重点的に推進している事業であり、4、5に関しては、特に来年度強化をしていくポイントになります。順に説明します。
1.デジタル産業基盤の強化
産業の基盤となる半導体、蓄電池、コンピューティングなど基盤技術の強化を行います。
半導体
環境が大きく変化する中、衰退した半導体産業を2020年に掲げた半導体産業復活の基本戦略(図1)として3ステップで描きました。まずはステップ1としてサプライチェーンの強靭化のために、今現在、日本でミッシングピースとなっている先端半導体分野の製造基盤整備を昨年度成立した5G促進法に基づいて、取組を進めているところです。また、そのための国内誘致も積極的に進めており、中でも熊本にTSMC(台湾の半導体受託製造企業)を誘致、JASM(TSMC・ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社・株式会社デンソーから成る合弁会社)が工場の建設を開始したことで、九州全体で関連業界の新工場設立など投資案件が増加し、2022年から2031年までの10年間の経済波及効果が4兆2,900億円と試算(九州フィナンシャルグループによる)されるなど、すでに好循環が生まれつつあります。こういった好例をどんどん進めることで、日本の半導体産業の復活を目指します。
ステップ2「日米連携強化」では、次世代半導体の確保に向けて各国が実現化ロードマップを掲げチャレンジを始めています。2020年代後半の実現に向けてすでに投資競争は始まっていることから、日本が参入するラストチャンスだと捉えています。
具体的には、国内での研究・量産拠点の整備を進めつつ特に日米連携の強化に注力し、昨年5月には米国と「半導体協力基本原則」に合意、また、日米首脳会談ではそれに基づく「次世代半導体開発の共同タスクフォースの設置」を発表しました。さらに、7月には重要・新興技術の育成・保護に向けて「日米共同研究開発の推進」に合意、11月には日本版のNSTC※1となる、LSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)の立ち上げも発表するなど、いかに日米でタッグを組んで次世代半導体を軌道に乗せるかという点にポイントをおき実行しています。過去の失敗を教訓に、とにかくオープンに日米を基軸としながらも様々な有志国と連携を図り実現につなげていきたいと思います。
ステップ3「グローバル連携」では、光電融合技術などの新しい技術開発にも力を入れ、次世代のその先にも勝ち筋が描けるように推進したいと考えています。
※1NSTC:米国の国立半導体技術センター
蓄電池
蓄電池は2050年カーボンニュートラル実現のカギであり、電化・デジタル社会を支える最重要技術の一つです。蓄電池市場は、車載用、定置用ともに拡大する見通しであり、2050年には100兆円規模の市場になると予想されています。技術優位によって初期市場は確保していたものの、海外メーカーが政府支援も背景に急速に供給を拡大しており、現在は日本のシェアが低下しているのが現実です。経済安全保障上の観点からもしっかりと対策強化を図る必要があると考えています。
主要国政府が蓄電池に対する大規模な政策支援を行っている中、日本でも蓄電池産業戦略の基本的な考え方(図2)をもとに補正予算措置による大規模支援等を行い、2030年までに国内製造基盤150GWh/年の確立、グローバル市場での600GWh/年の製造能力確保と時間軸を定めながら実行に移してまいります。
コンピューティング
昨年成立した経済安全保障推進法では、半導体、蓄電池に加えクラウドやプログラムが特定重要物資として位置付けられており、これがコンピューティングにあたります。情報処理基盤は経済安全保障上重要であり、社会全体のデジタル化を推進する中で不可欠な要素です。将来的にはスパコン、量子コンピュータ、AIコンピュータなどを最適に組み合わせることで、幅広い産業や行政サービスにおいて、ユーザー側が意識せずとも社会課題を自由自在に解くことができるような、次世代情報処理基盤の構築を目指し、足元ではスタートアップを含め様々なユーザー企業が量子コンピュータ等の高度な電子計算機を容易に活用できる環境整備を行います。
2.デジタルインフラ整備
デジタル社会実装基盤整備に向けて
今後は、ハードインフラの整備だけでなく、ソフト、ルールも含めたデジタル社会実装基盤を全国に整備するための長期計画「デジタル社会実装基盤全国総合整備計画(仮称)」を策定予定です。これは、デジタル技術はあったとしても社会実装に至らなければデジタル社会の実現は不可能であり、しっかりとした社会実装基盤の整備が必要であるという考え方です。社会全体での最適化を考え、重複や無駄を防ぎ、民間企業の参入に障壁ができないよう、ハード、ソフト、ルールともにアーキテクチャをしっかり示し、官民連携で投資を進めていきます。
現在、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の中にあるデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)を中心に、物流・人流・商流・金流などの観点から産学官の叡智を結集し、デジタル社会に必要なハード、ソフト、ルールの全体像を整理したアーキテクチャの作成を進めています。ドローン、自動運転車、サービスロボットなどを活用する場合でも、サプライチェーン強靭化を図るためでも、アプリやデータ連携などのソフト面から情報処理、通信などのハード面、仕様や制度などのルール作りを全国規模で整備し、面で広げていかなければ社会全体として非効率になってしまいます。このため、パブリックセクターとして、何をどのように整備する必要があるか基準を明確に示し、デジタル時代の工業標準規格の様なものを様々な分野で整備するべく、今年度その見通しを明らかにしていこうとしています。
デジタルプラットフォーム透明化法
令和2年に成立、公布された「デジタルプラットフォーム透明化法」では、モール、アプリストア、デジタル広告(昨年夏対象分野として新規追加)の3つが規制対象になっており、昨年冬にはモールとアプリストアに対する経済産業大臣の初の評価が行われました。この法律に関しては、施行後、様々な改善がされておりおおむね好意的な評価をいただいている一方で、手数料や返品・返金や自社優遇の問題などは引き続き取り組んでいく課題と捉えています。今後も新たに加わったデジタル広告とあわせて各社評価を行ってまいります。
3.デジタル人材育成・デジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタル人材の育成
デジタル社会を支え活用する人材育成として、政府全体で5年間で230万人のデジタル人材を育成すべく様々な取り組みを行っています(図3)。
その中の取り組みとして、経済産業省では、特別な人材に限らず、経営者を含むすべてのビジネスパーソンがDXを自分事と捉え、変革に向けて行動できるよう「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」という2つの項目で構成された「デジタルスキル標準」を公開しています。企業におけるDX推進人材確保や期待される役割、指標のほか、技術の利活用方法などを公開していますので、自社で不足している人材がどういった人なのか、スキル標準と照らし合わせるなどしてご活用ください。
また、人材育成に必要なプラットフォームとして「マナビDX」や「マナビDXクエスト」も実施しています。教育コンテンツの集約・提示に加えて、民間市場には存在しないケーススタディ教育プログラムや地域企業と協働したオンライン研修プログラムの提供を通じて、DXを推進する実践人材を一気通貫で育成することとしていますので、ぜひご活用ください。
産業分野別の人材育成
教育界に産業界から講師を招き実務教育を行ってもらう、協力してカリキュラムの組み方を検討するなど、今後の人材育成が地域に根差したものになるためには、産官学で人材を育てることも重要です。産官学連携による、大学・高専での育成機能の強化も地方公共団体、文部科学省とも連携し強化してまいります。
なお、IPAが行っている第一線で活躍するトップ人材を育てる「未踏」事業に関しては、延べ2,000人超の人材を育成し、約300名が起業・事業化するなど成果を出しています。
4.IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の機能強化
IPAは、経済産業省の政策実施機関として位置づけられており、デジタル化を担う随一の組織です。来年度より新たな中期目標期間である第五期を迎え、自身がデジタル社会における中核組織足りうるために、社会(人・組織)から求められる以下のような機能を有し、サービスを提供するとともに、これらを継続的に高度化していくことに取り組んでいく方針です。
①アーキテクチャー設計や企業・産業・地域のDXの社会実装等の推進機能
②企業・産業・地域のDXを支えるデジタル推進人材の供給機能
③サイバー空間における安心・安全の維持機能
5.国際関係
2023年度日本が議長国を務めるG7においては、DFFTの具体化に注力してまいります。実際にデータを越境流通させる際の阻害要因(障壁)を明らかにし、越境データ流通に関する各国の規制状況の一覧を提供するなど、障壁を取り除くための具体的なプロジェクトを実施できるよう、既存のデジタル経済のエコシステムを踏まえた新たな国際枠組み(図4)の実装を行ってまいります。
経済産業省 商務情報政策局 R4年度補正予算・R5年度当初予算案の全体像
上記で説明した5つの柱を重点的に取り組みますが、予算としては「1.デジタル産業基盤の強化」にあたる、「半導体:1兆2,636億円」、「蓄電池関連:5,083億円」及び「ソフトウェア:600億円」関係で約1.9兆円の補正予算が成立しています。
特に半導体に関しては、コロナ禍以降の半導体不足を補うサプライチェーン強靭化の支援や、先端性の高い半導体の生産基盤整備など基盤の強化を推進します。また、日米でタッグを組みながら、次世代半導体の研究開発、量産化に向けた体制整備にも取り組んでまいります。
一昨年の補正予算では8,000億円で組まれていたものを大幅に増額し取り組むため、継続案件ではありつつも、より注力をしていく分野だと位置づけています。
国が一歩前に出て、現在の円安を追い風と考え投資競争で負けない体制を作り、また国内投資の喚起とイノベーションの創出による賃金上昇につなげる好循環を作ることが重要課題と考え着実な実現を図ってまいります。
- 講師
- 経済産業省 商務情報政策局総務課 政策企画委員 神田 啓史氏
2007年に東京大学法学部を卒業後、経済産業省入省。
資源エネルギー庁電力・ガス事業部、特許庁総務課、内閣官房、原子力損害賠償支援機構出向、留学(コロンビア大学大学院)、経済産業政策局経済産業再生課、大臣官房秘書課、製造産業局自動車課、大臣官房政策企画委員、22年7月より現職。