2017.06.09
レポート
IoT導入を成功に導くデータマネジメント
日本テラデータ株式会社
アナリティクス・ビジネス・コンサルティング本部
コーポレート・エバンジェリスト エグゼクティブ・コンサルタント
金井 啓一 氏
ビジネスを取り巻く環境の変化
構造化データのみならず非構造化データを含むデータの増加、インダストリー4.0、フィンテック、人工知能の劇的な発達などにより、ビジネスを取り巻く環境が劇的に変化している。1990年代以降、インターネットエコノミーであった我々の社会は現在、データエコノミーつまり「データライゼーション(データ化すること)」がすべての基本になりつつあるといえる。しかし、データがリッチになった一方、insight(洞察力)がまだまだpoor(貧弱)であり、このIoT時代においては、データを深い洞察力を持って分析することが産業界に求められている。
IoTの本質とは?
「ビジネス(企業活動)や社会基盤(スマートシティ等)をどのようにより良くするか」という適用目的のためにIoTという仕組みを導入し、得られるデータを分析することがIoT導入を成功に導くポイントである。デマンド(事業)側はそのために、IoTで解決/強化できる事業モデル/事業課題を明確化し、ビジネス上の活用目的を定義し、IoTをビジネスで活用する際の留意点(セキュリティ、個人情報保護)に注意を払うことが必要である。デマンド(事業)側はこれらを踏まえたIoT適用ガイドライン/モデルを作らなければならない。
他方、データのサプライ(IT)側は、IoTで発生したデータと従来の基幹系で発生したデータの違いや、IoTデータに関してもストック型、フロー型といった動的性質や量、種類、頻度、正確性といった性質に配慮したデータマネジメント(データの発生、蓄積、統合、活用、破棄までの一連のプロセスをいう)ガイドライン/モデルを作らなければならない。この二つのガイドライン/モデルを踏まえたIoTの仕組みを作ることが重要である(図1)。
IoTを構成する仕組み
IoTシステムは、通常クラウド(またはオンプレミス)を使用するが、処理のリアルタイム性と通信・処理の負荷を考慮し、デバイスやユーザーに近いエッジコンピューティングを採用する場合もある。収集からフィードバックまでの一連の流れにおいて、センサー・デバイスからAPサーバまでのアーキテクチャ構成要素にはそれぞれ考慮すべき技術事項も多岐にわたる。
IoTにおけるデータマネジメント
IoTデバイスの低廉化やHadoopなどのオープンソースのミドルウェアの台頭などによりIoT、AIツールが廉価になった現在、従来一つの組織や工場のデータに閉じられていた基幹系統合DBに他のデータを組み合わせたデータマネジメントが容易になりつつある。AIを活用し、データの活用が自動化・自律化されればデータマネジメントも同様に行われ、IoTに関してはデバイス、エッジ、統合DBは場所も処理も異なり、膨大なデータの種類、量を考慮したデータマネジメントが必要になる。自社が扱うデータに置き換えてどのような処理を行うか考えて頂きたい(図2)。
IoTのビジネスにおけるデータ活用事例
企業活動においては、研究開発からお客様とのコミュニケーションに至るまで、さまざまなデータ分析が必要である。産業界においては、1.ビジネスのデジタライゼーション、2.全社統合データによるアナリティクス、3.IoTデータによるビジネスや社会への貢献、4.カスタマーエクスペリエンスの向上と顧客360°ビュー、5.これまで出来なかった高度な手法によるアナリティクスが現在のデータ統合・アナリティクスのトレンドであろう。
Siemensの事例
Siemensは、デザインおよびエンジニアリングからメンテナンスおよびサービスという顧客バリューチェーン全体にわたりデジタル技術のトレンドを活用して生産性の向上とマーケティングの迅速化から可用性と効率性の向上を行っている。また、その結果得られたプロセスと課題解決のノウハウを、同社の顧客に対して提供している。
これによって、Siemensと提携関係にあるスペインの鉄道会社Renfeが運行する26台の高速列車は、15分超の遅延発生時には乗客に料金を払い戻す可用性保証付のパフォーマンス契約を乗客と結び、定時運行率99.9%という高い成果を出している。その結果、60%の乗客が飛行機から列車に切り替えた。このサービスを支えているのは、Siemensのプラットフォーム「Sinalytics」であるが、そのデータ統合基盤としてTeradataやHadoop、データ分析基盤としてTeradata Asterが使われ、Asterアフィニティ関数の利用による修理部品の関連性分析やAster nPath関数の利用によるパスパターン分析等が行われている。これらによって、同時に故障しやすい部品の特定、エンジン故障の予知や未然防止を実現している。
IoTデータ分析組織のあり方
近時わが国でも自社内にデータ分析組織を構築したいという要望が高まっている。データサイエンティストには、1.ビジネス知識、2.データ理解、3.クリエイティビティ、4.分析ソリューション設計力、5.統計知識、6.テクニカルスキル、7.分析の洞察力、8.コミュニケーション力が求められるが、すべてを兼ね備えた人物はなかなかいない。また、すべてのデータ分析から思うような結果が得られるわけではない。しかし、データ分析が成功した場合、事故を未然に防ぐなど、企業に金銭面にとどまらない多大なメリットをもたらす。経営者は、データ活用において多少の失敗に寛容であることも必要だろう。
まとめ
IoTにより、これまで出来なかったことができ新しいビジネスモデルが創出され、業務プロセスが変革される。IoTの本質とは、ビジネスのリデザインである。
IoTにおけるデータマネジメントにおいては、従来のデータマネジメントより高度な対応が必要である。というのも、データの種類・量が膨大であり、発生場所も多岐に渡り、管理手法をIoTの処理に合わせる必要がある。
IoTなどのビッグデータ活用を成功させるためには、1.ビジネスユーザー、ビジネスコンサルタント、データサイエンティスト、ITエンジニアがチームを作りアナリティクスに取り組むこと、2.構造化データ、非構造化データを扱えるエコシステムを構築し、活用すること、3.全社でアナリティクスに取り組むことをCDO(Chief Data Officer)などのトップが認識・宣言し、コミットすることという、3つのKSF(Key Success Factor)が必要である。
当社は、調査会社ガートナーにより16年連続データウェアハウス分野でリーダーと目されている。データ主導型ビジネスの重要性が高まっている現在、何かご相談があればご連絡ください。