一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2017.06.08

レポート

企業が安心してデータ利活用できる環境とは

経済産業省 経済産業政策局
知的財産政策室長 諸永 裕一 氏

今般中間とりまとめを公表した「第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討」では、企業が安心してデータをやり取りができ、データの創出・収集・分析・管理などに対しての開発などの投資に見合った適正な対価を得ることができる環境の整備が必要であるとし、データの不正取得の禁止、データに施される暗号化技術等の保護強化、営業秘密として秘密管理しているデータ分析方法等に係る民事訴訟の負担軽減など、不正競争防止法の改正を視野に入れた検討を引き続き行うとの方針が示された。

各種調査にみるデータ利活用促進の課題

平成24年度に実施した「企業における営業秘密管理に関する実態調査」を再度平成28年度に実施したところ、「直近5年程度で営業秘密の漏えいリスクの高まりを感じる社会動向の変化」として、「標的型攻撃の増加」(51.9%)、「スマートフォン・タブレット機器等の急速な普及」(51.4%)、「データの活用機会の増加」(41.8%)、「人材の流動化」(33.7%)、「クラウドの利用機会の増加」(24.7%)などから漏えいリスクが増えていると感じている企業が多い。営業秘密の漏えい対策の状況を企業規模別にみると、大企業(301人以上)では「PC等の情報端末にはアンチウイルスソフトを導入している」という回答が約85%に上り、「営業秘密の保存領域にはアクセス権を設定している」という回答も高い(75.4%)。 他方、中小企業(0~300人)では「PC等の情報端末にはアンチウイルスソフトを導入している」という回答は4割に満たず(37.7%)、営業秘密へのアクセスをシステム的に制御するための対策を「特に何もしていない」とする回答も、大企業が2.0%であるのに対して中小企業では約4割(37.9%)に上る(図)。営業秘密へのアクセスを物理的に制御するための対策についても中小企業は「特に何もしていない」が過半数を占める(55.7%)。大企業が多くの中小企業を取引先としていることにも鑑み、対策をどのように進めていくかが今後の課題である。コスト面が課題であれば、政府の補助金で対応できるものもあるので活用して頂きたい。

(出典)「企業における営業秘密管理に関する実態調査」

「データ利活用促進に向けた企業における管理・契約等の実態調査」では、社内外とのデータ共有に関する将来望ましい姿と現状とのギャップを問う形でデータ利活用、契約締結の実態等を調査した。第三者による不正利用に対する法制度として「損害賠償基準の明確化」を求める企業が69.1%、「罰金・懲役等」といった罰則強化を求める企業が66.0%、「差止請求による被害の最小化」を求める企業が60.0%と上位を占めている。

保護対象となる情報等の位置づけ

第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討においては、企業が安心して他者とデータを共有することができるようにするために必要な制度等の検討を行っている。
データには、営業秘密(不正競争防止法)の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を満たし、秘密として管理される情報と、秘密として管理されていない情報がある。秘密として管理されていない情報には、無制限、無条件での利活用が認められているデータもあるが、一定の条件下で利活用可能とされているデータがある。その一定の条件下で利活用可能とされているデータの利活用を促進するために、データの不正取得行為等に対する規制を検討している。

データ利活用促進に向けたデータ保護(データの不正取得等の禁止)

昨日(平成29年5月16日)決定した「知財推進計画2017」でも、安心して他者とデータ共有できる環境にないとデータ利活用による産業競争力強化が進まないとされており、データの不正取得の禁止等の検討を進めている。
(1)規制行為
実際に検討している規制行為は、暗号化解除等の悪質性の高い行為によるデータの取得、悪質性の高い行為により取得したデータの使用・提供、データに付された管理情報を削除・改変した上でのデータの提供、不正な目的(図利加害目的など)での、データ提供者の意に反したデータの使用・提供、不正にデータを取得した者から事情を知ってデータの提供を受ける二次取得者以降の取得等である。
(2)保護対象
無意識、不注意による利用が過度に規制されることのないよう、客観的に管理の意思について一定の認識ができるようになっていること、事業活動に有用な情報であること、データ収集・管理等への投資がなされていること等を想定し、保護対象を検討している。
(3)救済措置
刑事措置を求める声もあるが、まずは民事における救済措置(差止請求、損害賠償請求、信用回復措置)の導入を検討している。
先述の「データ利活用促進に向けた企業における管理・契約等の実態調査」で差止請求による被害の最小化を求める企業が6割と比較的高かったことからも、民法の特例法として不正競争防止法による救済措置を定めることは意義がある。
さらに、「営業秘密管理指針」、「秘密情報の保護ハンドブック」をデジタル化、AI、IoTといった技術の進展を踏まえて記載を充実させる。

暗号化など技術的な制限手段の保護強化

不正競争防止法では現在、技術的制限手段を無効化する「機器の提供」、すなわち、影像(映像、文字、図形など人が視覚により感知するもの)や音(音データなど人が聴覚により感知するもの)の視聴、プログラムの実行に対する制限手段を外す機器の譲渡を禁止している。
現行の条文では、影像や音が視聴目的でなく分析目的で使用される場合には保護が及ばないことや、文字や図形になっていない位置情報などが保護対象とされていないことを踏まえ、必要に応じてそれらを保護対象として追加することを検討している。さらに、技術の進歩を踏まえた上で検討を行うことも重要である。また、機器の譲渡でなく、影像や音に対する制限を無効化するサービスの提供についても、今後禁止行為としていくことを併せて検討している。

技術的な営業秘密の保護(立証責任の転換)

技術的な情報のうち「物の生産方法」に関する営業秘密に関しては、民事訴訟において、原告側が不正に営業秘密を取得され、その営業秘密を利用すれば生産できる製品を製造していることまで立証すれば、不正に使用されていることの立証に関しては、使用していると推定し、必要があれば被告側が使用していないことの証明を行わなければならないという立証責任の転換が第5条の2で規定され、平成28年1月1日から施行されている。現在、分析方法など、生産方法以外の技術上の営業秘密についても対象として追加する必要があるかなどを検討している。

まとめ

海外でも、特に欧州は産業データの価値への認識が高まり、データの流通・促進に向けた議論が始まっている。そこでも、データに権利を付与するのではなく行為規制的アプローチに向かっているようである。
引き続き産業界のニーズに即した法制度を検討していくので皆様からのご意見を頂戴していきたい。