一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2014.09.19

レポート

未来のタクシーと観光(人流)

~「タクシー業」から「総合生活移動産業」へ~

株式会社システムオリジン 代表取締役社長 清野 吉光 氏

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当社は、私が3年間タクシー乗務員であった経験を生かして設立したタクシー業界に特化したソフトウェア会社である。タクシー業界は、①顧客、②タクシー車両、③メーターに搭載されたGPSという3つの位置情報と密接に関連している。本日は、タクシー業界における位置情報活用の進展についてお話しする。

顧客情報の把握

かつてタクシーを配車する際には、顧客情報をデータベース(DB)化し、お客様の電話番号から住所や経路情報などを検索する「テレハイ」というシステムを使っていたが、1989年、お客様の受話器に装着しボタンを押すとタクシー会社にID が発信され位置情報がわかる「コールボタン」を開発、1998年にはナンバーディスプレイと連動し顧客DBと照合して位置を把握する対応オプションの販売を開始した。2003年頃GPS が内蔵された携帯電話が普及すると、携帯電話の位置情報を配車に活用する仕組みが生まれたが、当時は事前にIP にアクセスし携帯電話位置情報を送信したあと電話をかけてもらい、通話者の位置情報を把握するという使い勝手の悪いものだった。2012年以降にはスマホが普及し、2014年1月からは東京のタクシー6グループが参加し、スマホからタクシー配車を依頼できる「スマホdeタッくん」や「全国タクシー配車」サービスが開始した。

タクシー車両情報の把握

車両の位置情報はかつてアナログ無線を介して乗務員が口頭で伝えていたが、1970年代頃からタクシー無線と公衆回線通信による通過情報(サインポスト)で把握するようになった。しかしサインポストは緊密に配置されておらずカバーできないエリアがあり、1990年代頃からタクシー無線を通じてGPS 情報を取得する方式が普及してきた。2010年代頃にはGPSが内蔵されているスマホやタブレット端末からの位置情報をIP 網を通じて取得する方式が徐々に普及してきている。タクシー無線の場合は月々のランニングコストがかからない、災害時に輻輳が起きないというメリットがあるがIP網を使用した場合のランニングコストも現在では1台当たりの月額が千円程度と低廉化し、ソフトの自由度が高いため普及し始めている。

タクシーメーター情報の把握

1980年代にはメーター機にメモリーが搭載され、1営業件数ごとのデータが記録できるようになったが、依然、日報を手書きしなければならなかった。2000年代になるとメーター機にデジタルタコグラフ、GPSが付随し、1日の走行内容がすべて把握できるようになり、帰庫後電子カードをメーター器から取り出し読み取り機にかけると自動日報ができるようになった。2010年頃には通信と結びつき、車内カメラ、ドライブレコーダーからの情報により事故やトラブルなどもリアルタイムに把握できる環境が整った。乗務員の走行記録がリアルタイムに把握可能な現在、より多くの営業収入に結び付くよう乗務員の指導に走行記録を使用する会社も出てきている。福岡市にあるトマト交通では、過去の営業記録や天候などの情報を解析し、乗車率が上がるよう乗務員の走行経路を管理、リアルタイムで指示を送る科学的な指導を行っている。

位置情報とITを活用した事例「GPS・情報端末を利用したタクシーの複合的なサービス提供の研究」

平成22年度、当社も参加したNPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構『民学産公』協働研究事業では、タクシーにiPadを車載することによって周辺にいる利用者は自身に最も近い位置にいるタクシーがわかる、外国人乗車の際にはSkypeを介してボランティア通訳サービスを利用するという実験を行った。2020 年の東京オリンピックの際にはこうした仕組みも役立つだろう。

総合生活移動産業の実現へ

地域の地道な「移動の問題」を解決しなければタクシー業界の未来も、地域生活者の未来も明るくない。タクシー業界は効率の良い業種ではないが、今後、医療・介護といった地域住民参加型支援の移動実施業者や既存の鉄道やバス、宅配事業者といった移動支援業者、国や地域行政との連携を一層進めることにより、高齢者など移動困難な地域生活者のニーズをより高い水準で満たす総合生活移動産業の創成に重要な役割を果たすことは間違いない。
当社は、利用者とタクシー業界をつなぐ「タクシーポータルサイト」、タクシー事業者のネットワーク化を推進する「チームネクスト」、事前運賃算出注文支援システム「たくあしくん」、法制度やシステム上の整理を行う「人流・観光研究所」設立といった活動を通じ、生活者が安心して生活できる総合生活移動産業の実現に向けたコーディネーターの役割を今後も担っていく。

  • 2014年9月19日 第41回電子情報利活用セミナー「位置情報と人流・観光ビジネス」