一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2014.04.17

レポート

電子情報の保存から活用に向けて

—電子記録応用基盤研究会 平成26年度活動計画

JIPDEC 電子情報利活用研究部 客員研究員 木村 道弘

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電子記録の課題とこれまでの検討内容

 クラウドやモバイル等のプラットフォームの登場、情報流通メディアの多様化に伴う情報量の急増など電子記録を取り巻く環境は変化し、電子記録の利用目的も、組織の内部管理から課題解決や情報の付加価値再生産へと変わってきている。しかし、これらの変化に現在の日本記録管理の在り方が追い付いているとは言い難い。
 JIPDECではこれまで、電子記録の保存・管理・利活用に関する検討に取り組み、欧州で策定された電子記録に係るシステムのモデル要件Moreqからの電子記録管理システム基盤に必要な100要件の集約、ケース指向管理や電子記録利活用のためのセキュリティの検討、およびそれらの普及促進などを行ってきた。
 ケース指向管理とは、案件(プロジェクト)ごとに、その案件に係る文書等の情報(業務の指示書、受領資料、調査資料、メモ、メール、中間作成文書、会議資料、議事録、成果物・アウトプットなど)を全て電子化し1つのケースファイルに入れて、業務プロセス(順序・状態・進捗)と連携して管理する記録管理手法である。従来の記録管理は、完成した文書等を後で整理し保存しておくという手法が中心であったが、ケース指向管理は、案件の開始時にまずケースファイルを作成して、案件発生から終了までの記録を管理していこうというものである。ケース指向管理の利点としては、一般化した雛形の作成、文書等の作成経緯も含めた過去の事例の参照、関係者への開示などを効率的に行うことができるといった点がある。

2013年度のeRAP研究会活動成果

1)ケース指向管理導入の目的の整理、導入による業務改善効果の調査
 2013年度には、まずケース指向管理導入の目的を整理し、実際の導入効果を調査した。ケース指向管理導入の目的としては、
(1)コンプライアンス厳守や訴訟への対応、リスク低減
(2)情報資産の活用による業務改善、効率化、生産性向上
(3)ノウハウの伝承や業務引き継ぎの効率化
および、それらによる企業価値の向上が挙げられる。また、地方自治体行政の文書管理、保険申込み・請求問合わせ、銀行融資といった業務におけるケース指向管理の導入効果を調査した結果、リスク低減、顧客への迅速な応答、ノウハウの蓄積といった効果を確認できた。調査結果の詳細は2013 年度研究会報告書にまとめている。
 ケース指向管理を行うためのシステムの製品は多数販売されているが、それらを利用せずに行うことも可能である。最も簡単な方法としては、ファイルサーバを利用して、一つのフォルダに関連文書等を順番に格納するとともに、別途管理台帳を作成してケースの属性や状態、関連情報を記入していくといった方法がある。実際にイギリス政府は、システムを用いない簡単な手法でのケース指向管理を行っている。ケース指向管理は、日本ではあまり行われていないが、海外では既に様々なツール・手法で行われている。

2)電子記録の利活用におけるセキュリティ
 また、2013年度には、電子記録の利活用におけるセキュリティの課題の検討を行い、主に
(1)真正性の確認に関して、非PKI署名等の海外動向や電子契約の事例の研究、個人でなく職印での署名が可能かといった電子署名の課題の検討
(2)アクセス制御手法のまとめ、および、シンクライアント、セキュアブラウザ等のモバイル系のアクセス制御の検討
(3)クラウドにおける再暗号化、PKIベースの配信文書秘匿、秘密分散等によるデータ秘匿の検討といった点について、研究・検討を行った。

2014年度のeRAP研究会活動計画

1)ケース指向管理ハンドブック(仮称)の製作
 日本の文書管理が海外の先進国より遅れている現状を踏まえ、2014年度にはまず、ケース指向電子記録管理の普及促進と情報ガバナンス・マネジメントの啓発を目的に、ケース指向管理ハンドブック(仮称)を製作する。また、電子記録の信頼性・真正性・証拠性確保の要件、ポリシー(文書管理規定、運用規定)作成の手引き、記録管理自己診断シートについても検討し、ハンドブックの付録としてまとめる予定である。

2)電子記録の利活用サービスにおけるセキュリティ要件の検討
 また、2014年度には、電子記録の利活用サービスの導入、運用にあたってのセキュリティ対策の指針となる要件を検討する。具体的には、既存または想定される電子記録の保管・利活用、情報流通サービスのモデル化を行い、いくつかのモデルについて、そのセキュリティ要件(アクセス制御、真正性保証、機密性保持等)を検討する。

 電子記録の管理と利活用について関心をお持ちの方には是非研究会活動にご参加いただきたい。

[電子記録応用基盤研究会 活動のご紹介・お問い合わせ先]

  • 2014年4月17日 第38回電子情報利活用セミナー「電子情報の安心・安全な利活用促進に向けて」