一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2014.04.17

レポート

パーソナルデータをめぐる法整備の動き

JIPDEC 電子情報利活用研究部 研究員 黒坂 達也

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はじめに

個人情報保護法および関連法制度の改正に向けた動きが内閣官房IT室傘下の「パーソナルデータを巡る検討会」で進められており、昨日第6回会合が開催されたが、今後もかなりの紆余曲折があることが予想される。本日の話を踏まえて皆様ご自身でパーソナルデータ、個人情報の取り扱いが今後どうなっていくべきか議論を深めていただき、さまざまな情報発信をして頂けるとありがたい。

個人情報保護法改正の背景

現在行われている個人情報保護法改正議論の大きな目的は、同法制定から10年が経過し、この間に生じた社会的・技術的差を埋めることである。
ビッグデータの利用局面は公共利用に役立てる第1ステージ、ネット事業者の台頭という第2ステージを経て、現在は実空間との連携という第3ステージに立っている。実空間との連携ということで私達自身や私空間に深く関わる多様な情報が収集されることになると、どういうデータの捉え方、使用法が万人に好ましいのかが問題になる。
また、個人情報保護法の礎となっているOECDプライバシーガイドラインはインターネットはおろか携帯電話もない1980年に制定されたが、情報通信技術の普及を踏まえて2013年に改正されており、わが国の個人情報保護法改正への流れも生じた。

パーソナルデータに関する世界的な動向

EUは個人の権利を強化する方向で欧州指令改定の検討を開始しているが、アメリカでも個人の権利をある程度守ろうという機運が高まっている。2012年2月に公表されたConsumer Privacy Bill of Rights(消費者権利章典)は、人間の多様な側面のうち「消費者」という側面をピックアップして、経済活動の中で企業と市民が対峙した際に、消費者としての個人の情報の利用の仕方は一定程度守らなければならない、としている。よくアメリカは個人のプライバシーに配慮しないといわれるが必ずしもそうではなく、アメリカはヨーロッパよりも市民社会の歴史が深いので、プライバシーに関する大規模訴訟も起きている。従ってアメリカが緩くヨーロッパが厳しいということではなく、アメリカでは現時点では「消費者」というものを守り、ヨーロッパはそれを拡大し市民というものを守ろうという概念である。

パーソナルデータに関する検討会での検討内容

わが国ではここ数年の間に個人情報保護法や各省庁ガイドラインに照らし、事業者による個人情報の取扱いの適切さをケース・バイ・ケースで議論、検討する研究会が各省庁傘下に複数立ち上げられた。2012年11 月から2013年6月まで総務省傘下で開催された「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」と、目指すべき社会を実現するためにパーソナルデータの利用を促進するための環境整備等を図ると謳っている「世界最先端IT 国家創造宣言」(2013年6月閣議決定)が、2013年9月に内閣官房の傘下に設立された「パーソナルデータに関する検討会」の礎になっている。
パーソナルデータに関する検討会では、1.現行法における個人情報の範囲の明確化、2.匿名化されたパーソナルデータの取扱いについて、法的議論のみならず技術的な可能性を含めて検討が進められているが、「絶対的な匿名化」は存在しないという結論に達したことが重要な成果である。これまでは「個人情報」と「非個人情報」の2つの定義しかなかったが、この2つの間を「識別特定情報(個人が(識別されかつ)特定される状態の情報)」から「非識別非特定情報(一人一人が識別されない(かつ個人が特定されない)状態の情報)」まで、グラデーション(解像度の幅)があるとし、個人情報にも非個人情報にも分類できない領域に属する情報をどこまで匿名化するか、という点について議論を継続している。

今後の検討課題

パーソナルデータに関する検討会は2014年6月の政策大綱公表に向けて、現在も議論を継続中であり、匿名化された情報の取扱いについて、米国FTCの考え方を踏まえた整理等が行われている。そのほかに、1.同意対象・目的の明確化、取得方法といった同意のあり方、2.同意不要な匿名化の定義、匿名化手法や匿名化の管理といった匿名化処理、3.国際的なデータ移転などのデータ流通等、今後検討すべき課題は山積している。しかし、政府はパーソナルデータの利活用を推進する方向で議論を進めており、こうした課題を含めた匿名化に関する問題が解決すればこれまでは個人情報保護法下での「委託」スキームが必要であった「パーソナルデータ分析販売事業」の実質的解禁やパーソナルデータの売買を促進する「パーソナルデータブローカー事業」の勃興などの個人情報の利活用が期待されている。
2015年1月の法改正に向けて、パブリックコメントの募集も予定されており、産業界の皆さまからも法改正やパーソナルデータを活用したビジネス案などをどんどん情報発信していただきたい。

  • 2014年4月17日 第38回電子情報利活用セミナー「電子情報の安心・安全な利活用促進に向けて」